化学反応式が覚えられない、という相談で共通しているのは「式そのものを覚えようとしている」ことです。式は種類が無限にあるので、その方針だと必ず途中で止まります。
覚える対象は式ではなく、教科書で実際にやる実験です。中学校学習指導要領の解説には、化学式と化学反応式は「簡単なものとして、観察、実験などで実際に扱う物質や化学変化で構成する原子の数が少ないものを取り扱う」と書かれています。出る範囲は公的に限定されているのです。
この記事では、覚えるべき実験の一覧、式を作る3手順、係数の合わせ方、そして高校で増えるルールを塾長が順に整理します。
結論:覚えるのは式ではなく「授業でやる実験」
| やること | 中身 |
|---|---|
| 覚える | 授業でやる実験の中身(何を何にしたら、何ができたか) |
| 覚えない | 化学反応式そのもの。矢印の左右で原子の数を合わせれば自分で書ける |
| 触っていい | 係数だけ(化学式の前に付ける数)。添え字を変えると別の物質になる |
| 公的な範囲 | 「観察、実験などで実際に扱う物質」=教科書に出てくる実験の分だけ |

「炭酸水素ナトリウムの熱分解の式」を丸暗記しようとする子はたくさんいます。でもその実験でフラスコに何が残って、何が出てきたかを言えれば、式は書ける。順番が逆になっているだけなんです。
丸暗記だと増え続ける理由|変わるのは原子の組合せだけ
中学校学習指導要領の解説には、化学変化について「化学変化の前後では原子の組合せが変わる」と書かれています。つまり反応の前後で、原子そのものは消えも増えもせず、くっつき方が変わるだけです。
だから化学反応式は暗号ではなく、原子の数え上げにすぎません。左に反応前の物質、右に反応後の物質を並べ、左右で原子の数がそろうように係数を付ける。それで完成します。
同じ解説には、化学反応式は世界共通であること、化学変化を化学反応式で表すことは、化学変化に関係する原子や分子の種類や数を捉える上で有効であることにも気付かせる、と書かれています。式は覚えるための暗号ではなく、数を捉えるための道具という位置づけです。
式を覚える勉強は、覚えた式しか書けません。作り方を覚える勉強は、見たことのない反応でも書けます。高校入試には初見の実験が出るので、後者でないと点が安定しません。
覚える範囲は決まっている|「簡単なもの」の中身
中学校学習指導要領の内容の取扱いには、「『化学式』及び『化学反応式』については、簡単なものを扱うこと」とあります。そして解説の本文で、その「簡単なもの」の中身がはっきり定義されています。
「観察、実験などで実際に扱う物質や化学変化で構成する原子の数が少ないもの」。つまり、授業でやらない反応は出ません。ネットで見つけた長い式を覚える必要はないということです。
酸化と還元についても同じで、解説には「酸化や還元の反応については、簡単なものとして、構成する原子の数が少ないものを取り扱う」とあります。

この一文を知らないまま、参考書の巻末の反応式一覧を全部覚えようとしている子がいます。範囲外まで覚えて時間を溶かしているので、まず範囲を確定させてください。
中学で出る化学変化の一覧|指導要領が例示している実験
学習指導要領の解説には、どんな実験を扱うかまで例が書かれています。そこに挙がっているものを、反応の型ごとに並べたのが次の表です。
分解|一つの物質が二つ以上に分かれる
| 実験 | 解説での位置づけ | 反応後にできるもの |
|---|---|---|
| 酸化銀を加熱する | 熱によって分解する実験の例として明記。変化の様子が明確なもの | 銀と酸素 |
| 炭酸水素ナトリウムを加熱する | 日常生活との関連がある例として明記 | 炭酸ナトリウム・二酸化炭素・水 |
| 水に電流を流す | 電流を流して分解する実験の例として明記 | 水素と酸素 |
結び付く反応|二つの物質が一つになる
解説には「金属が酸素や硫黄と結び付く反応のように、反応前後の物質の色や形状などの違いが明確なものを取り上げる」とあります。
| 実験 | 反応前 | 反応後にできるもの |
|---|---|---|
| 金属を空気中で加熱する | マグネシウムや銅と酸素 | 酸化マグネシウム・酸化銅 |
| 鉄と硫黄を混ぜて加熱する | 鉄と硫黄 | 硫化鉄 |
酸化と還元|酸素をやりとりする逆向きの反応
解説には、酸化と還元は「酸素をやりとりする逆向きの反応」だと書かれています。身近な例として、酸化では金属がさびること、還元では鉄鉱石から鉄を取り出して利用していることが挙げられています。
| 実験 | 酸素はどちらへ動くか |
|---|---|
| 金属を酸化する | 酸素が金属にくっつく |
| 金属の酸化物を還元する | 酸素が金属から離れる |
熱の出入り|発熱と吸熱
化学変化と熱の項目では、発熱の例としてアルコールの燃焼やカイロ、とくに鉄粉の酸化を利用したカイロを生徒につくらせることが挙げられています。吸熱する場合の例としては塩化アンモニウムと水酸化バリウムの反応が挙げられています。
中和|中学三年のイオンで出てくる
中和は、中学三年の「化学変化とイオン」で扱います。解説には「うすい塩酸とうすい水酸化ナトリウム水溶液を中和させる実験」が例として挙げられ、水素イオンと水酸化物イオンから水が生じ、塩化物イオンとナトリウムイオンから塩化ナトリウムという塩が生じると書かれています。
解説には「中性にならなくても中和反応は起きている」ことにも触れる、と明記されています。「中和=中性になること」だと思い込んでいると、この点を突く問題で落とします。
化学式そのものの作り方(原子記号と組み立てのルール)は、こちらで先に固めてください。

化学反応式の作り方3手順
| 手順 | やること | 例:炭素を燃やす |
|---|---|---|
| 1 | 矢印の左に反応前、右に反応後の化学式を並べる | C + O₂ → CO₂ |
| 2 | 左右で原子の数を数える | C:左1・右1/O:左2・右2 → そろっている |
| 3 | 合わない原子があれば係数で調整する(添え字は変えない) | この例は調整不要で完成 |
手順1で書く化学式は、物質ごとに決まっている正体そのものです。ここを間違えると、あとの数合わせを何回やっても正解になりません。化学式が先、反応式が後という順番を崩さないでください。
例:水に電流を流す
| 段階 | 式 | 原子の数 |
|---|---|---|
| まず並べる | H₂O → H₂ + O₂ | H:左2・右2/O:左1・右2(Oが合わない) |
| 左を2倍にする | 2H₂O → H₂ + O₂ | H:左4・右2/O:左2・右2(Hが合わない) |
| 右の水素を2倍にする | 2H₂O → 2H₂ + O₂ | H:左4・右4/O:左2・右2(完成) |
係数の合わせ方|触っていいのは係数だけ
| やること | 理由 |
|---|---|
| 添え字は絶対に変えない | 添え字は物質の正体。O₂をOにしたら酸素分子ではなくなる |
| 係数だけを動かす | 係数は個数。いくつ用意するかの話なので、変えても物質は変わらない |
| 種類の少ない原子から合わせる | 片方にしか出てこない原子を先に固定すると、あとが自動で決まる |
| 最後に全体を整数にそろえる | 途中で分数になっても、全部を同じ数だけ倍にすれば直る |
係数を合わせる作業は、左右の原子の数を並べて書くほど速くなります。頭の中だけで数えようとして間違えている子が多いので、紙に「H:左◯・右◯」と書き出す癖をつけてください。

テストで反応式を落とす原因は、ほとんどが数え間違いか、添え字を触ってしまったかのどちらかです。覚えていないから書けないのではありません。書き出す手順を決めていないから崩れるんです。
語呂合わせと歌はどこまで使えるか
検索すると語呂合わせや歌がたくさん出てきます。これらが役に立つのは、物質の名前と化学式の対応を覚える場面です。一方で、反応式そのものを語呂で覚えると、係数を1つ間違えただけで思い出せなくなります。
| 覚え方 | 向いている対象 | 向いていない対象 |
|---|---|---|
| 語呂合わせ・歌 | 原子記号の並び、化学式と名前の対応 | 化学反応式の全体 |
| 実験の記憶 | 何が何に変わったか(反応の中身) | 化学式の書き方そのもの |
| 書き出す練習 | 係数の合わせ方 | — |
順番としては、原子記号と化学式を語呂で入れる、実験の中身を思い出す、その場で式を組み立てる、という流れが安定します。
中学理科の他の単元とあわせて確認したい場合は、一問一答で穴を見つけるのが早いです。

高校で増えるルールは一つだけ|係数は質量の比ではない
高校の化学基礎に進むと、化学反応式に新しい意味が加わります。高等学校学習指導要領の解説には、「化学反応式の係数の比が化学反応における物質量の比を表すことを扱う」と書かれています。
そして、つまずきどころが名指しで書かれています。「化学反応式の係数の比が、反応物と生成物の質量の比を表しているのではなく、物質量の比を表していることに気付かせ」という一文です。
係数の比は質量の比ではありません。物質量、つまり粒の個数の比です。質量に直すには、それぞれの物質の重さの分だけ換算がいります。ここを混ぜると計算問題が全部ずれます。
高校で扱う実験の例も解説に挙がっており、炭酸カルシウムと塩酸を反応させる実験や炭酸水素ナトリウムの熱分解の実験が示されています。炭酸水素ナトリウムの熱分解は中学でも扱う反応なので、中学でやった実験がそのまま高校の計算材料になるということです。
なお、大学入学共通テストの理科では、物理基礎・化学基礎・生物基礎・地学基礎の四つが出題範囲となり、そのうち二つを選択して解答します。化学基礎を選ぶなら、この係数の意味が計算の土台になります。
高校化学をどの順番で進めるかは、こちらで整理しています。

よくある質問
- 化学反応式は暗記すべきですか?
-
式そのものの暗記は必要ありません。学習指導要領の解説では、扱う範囲が「観察、実験などで実際に扱う物質」に限定されています。授業でやった実験の中身を覚え、式はその場で組み立てるのが、範囲としても正確で速いやり方です。
- 覚えた方がいい化学反応式はどれですか?
-
解説が例示しているのは、酸化銀の分解、炭酸水素ナトリウムの分解、水に電流を流す実験、金属と酸素や硫黄が結び付く反応、金属の酸化物の還元、そして中学三年の塩酸と水酸化ナトリウムの中和です。この範囲の実験を押さえれば足ります。
- 化学反応式に裏ワザはありますか?
-
裏ワザというより手順です。左右に化学式を並べる、原子の数を書き出す、種類の少ない原子から係数を合わせる。この順番を毎回同じにすることが、いちばん速い解き方になります。
- 係数を合わせるとき、添え字を変えてはいけないのはなぜですか?
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添え字は物質の正体だからです。酸素分子はO₂であって、Oに変えると別のものを指してしまいます。数が合わないときに動かしていいのは係数だけです。
- 中学の内容は高校の化学基礎にそのままつながりますか?
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つながります。高等学校学習指導要領の解説にも、中学校で簡単な化学式や化学反応式を学習していることが前提として書かれています。高校で増えるのは係数が物質量の比を表すという意味づけです。
この記事で確認した公式ページ
本記事に書いた範囲・扱う実験・係数の意味は、次の公的資料の本文で確認しました(2026年9月7日確認)。
文部科学省「中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編」
文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編」

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