中高一貫校で「深海魚」になるのは、能力の問題ではありません。中学のうちに高校の内容を教え、高校ではそれを再度指導しない——この形が国の制度として認められているため、一度落とした単元が高校で自動的に戻ってくる保証がないのです。一方で「公立向けの塾では対応できない」は誤りで、一貫校専門ではない大手3社が、学校教材への対応を公式に明記していました。塾選びで実際に確かめるべき3点を、公式の実物で整理します。

中高一貫校に通っているんですが、授業が速すぎて完全に置いていかれました。入学したときは成績上位だったのに…。

中高一貫校で成績が落ちるのはよくあることで、能力の問題ではありません。カリキュラムの構造上、そうなりやすい。原因と対処法をはっきりお伝えします。
中高一貫校は「進度が速い」「体系数学など独自教材」「周りが全員できる」という3つの条件が重なるため、公立中とはまったく別の対策が必要です。ただし、そこから「一般の塾では対応できない」と結論づけるのは早すぎます。実際には大手の個別指導塾が、学校の教材に合わせる形を公式に用意しています(後述)。
- ①6年間で大学受験まで届かせる設計…体系数学は5巻構成で、2巻が「中学2,3年生用」・3巻が「高校1,2年生用」。しかも高校の内容を中学に移し、高校では再度指導しないことが文科省の特例で認められています。復習に回せる時間が少ないだけでなく、「高校でもう一度やる」があてにできない
- ②独自教材(体系数学・New Treasureなど)…市販の参考書や一般の塾の教材と範囲・順序が合わない。ただし数学は完全準拠の市販教材が買え、英語のNew Treasureは個人には売られていないので、打つ手が正反対になります
- ③深海魚現象…入学時は全員が合格者。順位をつければ必ず半数が下位に回ります。ただし学校がつける評定は順位で機械的に決まるものではありません(後述)
「深海魚」になる本当の原因
中高一貫校で下位に沈むことを俗に「深海魚」と言いますが、この現象の本質は母集団が入れ替わったことです。
入学時点で全員が同じ試験に受かっている=学力が近い集団です。そこで順位をつければ、当然半分は下位になります。公立中なら上位に入る学力でも、一貫校では真ん中以下になり得る——これは学力低下ではなく、比べる相手が変わっただけです。

保護者の方が一番心配されるのがここですが、「順位が下がった=勉強していない」ではありません。一貫校の下位層の学力は、公立の上位層と同等かそれ以上ということも普通にあります。
順位が下がることと、評定が下がることは別のもの
ここを混ぜてしまう保護者の方が多いのですが、校内順位と、通知表につく評定は別物です。文科省が示している学習評価の考え方は「目標に準拠した評価」で、あらかじめ決めた割合で上位から順に配分する方式ではありません(小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校等における児童生徒の学習評価及び指導要録の改善等について(平成31年3月29日・30文科初第1845号)・2026年8月13日確認)。
つまり順位が真ん中以下でも、目標に到達していれば評定は下がりません。逆に、順位が保てていても目標に届いていない項目があれば評定は下がります。内部進学の基準に使われるのは順位ではなく評定のほうなので、先に見るべきは順位表ではなく、通知表と観点別評価です。
本当に危険なのは「授業が理解できていない」状態
順位より深刻なのは、授業内容が分からないまま進んでいるケースです。進度が速いため、1つの単元でつまずくと2週間後には別の単元に入り、戻る機会がありません。放置すると高校範囲に入った時点で完全に手遅れになります。
「高校でもう一度やる」は制度上あてにできない
ここが、一貫生の遅れが公立生の遅れと決定的に違う点です。文科省は中高一貫教育校(中等教育学校・併設型)に教育課程の基準の特例を設けており、そのなかにこう書かれています(文部科学省「中高一貫教育Q&A:教育課程・評価に関すること」・2026年8月13日確認)。
「中等教育学校後期課程及び併設型高等学校における指導内容の一部については,中等教育学校前期課程及び併設型中学校における指導の内容に移行して指導することができること。この場合においては,中等教育学校後期課程及び併設型高等学校において,当該移行した指導の内容について再度指導しないことができること。」
さらに同じQ&AのA17では、高校の内容を中学へ移した場合「移行した内容について高等学校の単位数を減じ,高等学校で再度指導しないことが可能です」と明記されています。
公立中で数学につまずいた子には「高1でもう一度やる」という保険がありますが、一貫校ではその二度目が制度上なくなっていることがあるということです。中3で高校範囲に入っている学校なら、そこを落とした状態は高1では回復しません。「中3が最大の分岐点」と言われるのは、精神論ではなくカリキュラムの構造がそうなっているからです。
ただし同じQ&Aは、特例を使う学校側への配慮事項として「生徒に過重な負担をかけるものとならないよう十分に配慮するなど,適切に教育課程を編成・実施すること」も求めています。ついていけない状態を学校に相談するのは、遠慮すべきことではなく制度の想定内です。
「公立向けの塾では対応できない」は本当か(大手4社の公式記載)
この記事はもともと「一般的な塾は公立生向けなので合わない」と書いていましたが、各社の公式ページを実際に当たったところ、そうとは言えませんでした。大手の個別指導塾は、学校の教材や進度に合わせる形をはっきり公開しています。
| 塾 | 中高一貫・私立校について公式に書いていること |
|---|---|
| 東京個別指導学院 (ベネッセグループ) | 「進度の速い数学・英語の教材にも対応していますか?」に対し「プログレス・トレジャー・体系数学など、私立校で採用する特殊なテキストにも対応しておりますのでご安心ください」。あわせて私立中学生(中等教育学校含む)2,842名在籍(2024年8月時点・(株)東京個別指導学院全体)と公開 |
| 個太郎塾 (市進) | 中高一貫校生コースを中1〜高3で設置。対象科目は英語・数学・国語・理科・社会。「お通いの学校の教科書に対応」を掲げ、在籍生が通う中高一貫校を実名で一覧公開している |
| 個別指導塾WAM | 「私立の学校なので公立校の生徒と授業内容が違うのですが・・」に対し「各学校の進度に合わせてカリキュラムを作成しますのでご安心ください。私学に通われているお子様の大半は、学校の副教材の問題集を使用し授業を行っております」。中学生向けに中高一貫校内申対策コースもある |
| 個別指導塾WAYS (中高一貫校専門) | 「現在の成績が悪いから入塾をお断りするということはございません」と公式のよくある質問に明記(対象は「家で勉強ができない、成績が上がらない中高一貫生」)。ただし定期テスト対策の指導科目は英語・算数(数学)・理科(物理・化学)で、他科目は教室に問い合わせ |
※各社の公式ページを2026年8月13日に確認。引用は原文のままです。
つまり「公立向けだから対応できない」ではありません。差がつくのは対応の可否ではなく、どの科目まで見てくれるか・学校の教材をそのまま使えるか・進度にどう合わせるかの3点です。ここは面談で聞けば分かります。
それでも公立向けの塾に「そのまま」入れてはいけない理由
| 公立中向けの標準コース | 中高一貫生に必要なもの | |
|---|---|---|
| 進度 | 学校より少し先 | 学校の進度に合わせて追いつく |
| 教材 | 教科書準拠(公立) | 体系数学・New Treasureなど学校の教材 |
| 目的 | 高校受験 | 大学受験(6年後)と定期テスト |
| 指導内容 | 入試対策 | 学校の授業の理解と定期テスト対策 |
| 学年の扱い | 中3で受験 | 中3=高校内容に入っている学校もある |
※「その塾が対応できない」ではなく「標準コースのままでは噛み合わない」という意味です。上の4社はいずれも一貫生向けの受け皿を別に用意しています。案内された枠が公立生向けの標準コースになっていないか、申込前に確認してください。
中高一貫生の塾選び 3つの条件
- ①学校の教材そのものを使えるか…「体系数学に対応していますか」では足りません。学校名・教材名・巻数を出して、その教材で授業できるかを聞く
- ②学校の進度に合わせられるか…塾の独自カリキュラムを先に走らせる形だと、定期テストに間に合いません
- ③困っている科目が対象に入っているか…ここが一番外れます。専門塾=全科目に強い、ではありません(下記)
①教材は、数学と英語で打つ手が正反対になる
数学の『体系数学』は、数研出版が完全準拠の市販教材(テキスト・体系問題集・チャート式参考書・パーフェクトガイド)を販売しており、中学校教科書との対応表も無料で公開されています(2026年8月13日確認)。塾側が手当てしやすい教材です。
一方、英語の『New Treasure』はZ会が準拠ワークブックまでそろえていますが、公式に「この商品の購入は、中学校・高等学校・中等教育学校など、一条校に限定しております。個人および塾・予備校への販売は行っておりません」と明記しています(Z会 New Treasure 公式・2026年8月13日確認)。塾は準拠教材を買えないので、学校で配られた本人の教材をそのまま持ち込めるかが決定打になります。

「独自教材だから対応が難しい」とひとくくりにされがちですが、数学は買える、英語は買えない。同じ言葉で聞いても、返ってくる答えの意味が違います。
③専門塾のほうが「科目は狭い」ことがある
意外に思われるかもしれませんが、中高一貫校専門をうたう塾のほうが対応科目が狭い場合があります。個別指導塾WAYSの公式のよくある質問は「定期テスト対策指導は英語・算数(数学)・理科(物理・化学)です。その他の科目は教室までお問合せください」としています(大学受験対策は5教科全科目・2026年8月13日確認)。対して個太郎塾の中高一貫校生コースは英語・数学・国語・理科・社会の5科目です。
つまり「数学と英語が崩れている」なら専門塾、「国語・社会も含めて評定を戻したい」なら5科目対応の総合型、と選ぶ順番が変わります。困っている科目を先に決めてから塾を選んでください。
中高一貫校専門塾を検討する場合
中高一貫指導ノウハウを活用【個別指導塾WAYS】
は中高一貫校生を専門にしており、公式のよくある質問で「1回120分の授業となります。120分の授業時間内で完結する指導方法をとっており、家で勉強ができない生徒のために塾内の指導時間でやるべき学習を完結させています」と説明しています。料金ページにも「『家で勉強できない生徒』に宿題は課さない」と明示されています(公式・指導料金ページ/2026年8月13日確認)。部活や学校の課題で時間がない一貫生にとって、宿題を増やされない設計は現実的です。
申し込む前に、次の3点だけ先に確認しておいてください。
| 確認すること | 公式に書かれていること(2026年8月13日時点) |
|---|---|
| 通える場所にあるか | 東京17・神奈川9・埼玉3・千葉2・大阪3・京都1・兵庫1・愛知1・奈良1の計38教室。この9都府県以外には教室がない |
| 料金の調べ方 | 公式の指導料金ページに金額の記載はない(「学習相談を通じて各生徒さんの状況に最適なプランをご提案しております」)。ただし資料に「通塾回数別の授業料の目安」が載ると明記されており、来塾しなくても目安は分かる |
| いつから入れるか | 「中高一貫校への進学が決まっているお子さまに限り、小学6年生の2月から指導可能」。中学受験の合格発表直後から動ける |
数学だけが崩れている場合は、科目特化型も選択肢になります。「数学が苦手」な生徒のためのオンライン数学塾
(数強塾)は公式トップページで「中高一貫校の『体系数学』も学校の進度と教材に合わせて指導します」と明記しています(数強塾 公式・2026年8月13日確認)。
学校の教材にそのまま合わせてもらえるかどうかが分かれ目です。市販教材に差し替えられると、学校の課題が別に残ります。

学年別・中高一貫生がやるべきこと
| 学年 | 状況 | やるべきこと |
|---|---|---|
| 中1 | ペースに慣れる時期 | 復習の習慣づけ。ここで習慣がないと後で詰みます |
| 中2 | 差が開き始める | つまずいた単元に早めに戻る。放置期間を短く |
| 中3 | 高校内容に入る学校も | ここが最大の分岐点。この範囲は高校で再度指導しない扱いになっていることがあるので、遅れているなら本気で立て直す |
| 高1 | 大学受験の土台 | 英数の基礎を完成させる |
| 高2 | 受験勉強の開始 | 志望校を決めて逆算開始 |
| 高3 | 受験本番 | 演習中心 |
※一貫校は中3〜高1で高校内容に入るため、実質的な受験勉強のスタートが公立生より1〜2年早いのが有利な点です。ただし前倒しした範囲は高校でもう一度扱われるとは限らないので、中3の遅れが高1で自動的に解消することはありません。
私立中の家庭の半数は、塾に1円も払っていない
「うちだけ塾に行かせていないのでは」と焦る方がいますが、文科省の令和5年度 子供の学習費調査を見ると、私立中学校で年間の学習塾費が0円の家庭は48.8%(公立中は34.0%)です。一方で学年別の平均(0円の家庭を含む)は私立中1が151,796円で、公立中1の133,647円より高く、中3になっても202,127円と1.3倍にしかなりません(公立は中1の2.6倍に増える)。
読み方はこうです。私立中では「入学直後から動く家庭」と「6年間ずっと動かない家庭」に最初から割れていて、学年が上がっても行動が変わらない。高校受験という締め切りがないからです。だから差がついても校内では見えにくい。周りに合わせて動く場面が来ないので、家庭が自分で決めるしかない——これが一貫校の一番やりにくいところだと思います。
よくある質問
- 成績が下位です。転校を考えた方がいいですか?
順位だけで判断しないでください。判断基準は「授業が理解できているか」です。理解できているなら順位が下でも問題ありません。理解できていない状態が半年以上続いているなら、まず塾など外部のサポートを検討し、それでも改善しない場合に環境の変更を考える順序が現実的です。なお文科省は、特例で進度を組み替えている学校に対して「生徒の転校や進路変更等に際しては、転校先や進学先の学校における教育課程の実施に支障が生じることのないよう、必要に応じ、当該生徒に対する個別の補充指導を行うなど十分な配慮を行うこと」を求めています。転校時の補充指導は学校側の配慮事項として想定されているので、遠慮せず相談してください。
- 中3で高校の内容に入りました。高校でもう一度やりますか?
やらない扱いになっている可能性があります。文科省は、高校の指導内容を中学へ移した場合「移行した内容について高等学校の単位数を減じ、高等学校で再度指導しないことが可能です」としています。また移行した場合は指導要録に特記事項として高等学校の内容を履修していることを明記することが求められています。学校のシラバス(年間指導計画)か個人面談で、「この単元は高校で再度扱いますか」と単元名を出して確認してください。ここが「やる」か「やらない」かで、今すぐ手を打つべきかどうかが変わります。
- 授業についていけないのは、うちの子の努力不足でしょうか
そう決めつけないでください。文科省は特例を使う学校に対し「生徒に過重な負担をかけるものとならないよう十分に配慮するなど、適切に教育課程を編成・実施すること」を求めています。進度についていけない生徒が出ることは制度の側でも想定されています。まず担当の先生に、どの単元から崩れているかを具体的に相談するのが最短です。
- 体系数学についていけません
学年別の参考書とは順序が合いませんが、数研出版が体系数学に完全準拠した参考書とパーフェクトガイドを市販しています(1巻・2巻=中学範囲ぶん)。中学校教科書との対応表も公式が無料公開しているので、まずはそちらを使ってください。英語の New Treasure は逆で、準拠ワークブックはあってもZ会が個人に販売していません(学校の先生経由)。同じ独自教材でも打つ手が違います。
- 国語や社会でつまずいています。中高一貫校専門の塾でいいですか?
先に対象科目を確認してください。中高一貫校専門をうたっていても、定期テスト対策の科目が英語・数学・理科に限られている塾があります(個別指導塾WAYSの公式のよくある質問)。国語・社会も含めて評定を戻したいなら、5科目に対応している総合型の個別指導(個太郎塾の中高一貫校生コースなど)のほうが噛み合います。
- 中高一貫生に大手予備校は合いますか?
高2以降で大学受験対策に入る段階なら有効です。ただし中学生〜高1の「学校の授業についていく」段階では、学校の進度と教材に合わせられる個別指導の方が適しています。段階によって使い分けてください。
- 内部進学が決まっているので勉強しなくていい?
内部進学の基準を満たしていても、その先に大学受験があります。一貫校のカリキュラムは大学受験を前提に組まれているので、中学範囲でつまずいたまま進むと高2〜高3で必ず苦しくなります。
本記事は2026年8月13日に各塾の公式サイトと文部科学省の公表資料で確認した情報をもとに、個別指導塾の塾長がまとめたものです。当サイトの運営者は掲載した塾の関係者ではなく、実際に通った体験に基づくものではありません。東京個別指導学院の私立中学生2,842名は同社が2024年8月時点として公開している数字で、現在の在籍数ではありません。教室数・対応科目・料金は教室や時期で変わるため、必ず通う予定の教室に直接ご確認ください。また文科省の特例は「そうできる」と定めたもので、実際に適用しているかは学校ごとに違います。お子さんの学校のシラバスと面談で確認してください。
あわせて読みたい


教材ごとの対処法は個別にまとめています。数学(体系数学)と英語(New Treasure・プログレス)では、つまずき方も戻り方も違います。
そもそも塾に入れるべきか迷っている段階なら、判断のサインをこちらにまとめています。





この記事を書いた人:たかた(兵庫県の個別指導塾 塾長)→ 運営者情報
中高一貫校専門のWAYSについては、料金の調べ方と「向く子・向かない子」を個別にまとめました。

塾を実際に選ぶ段階になったら、面談で聞くべきことが決まっています。教材の入手可否が数学と英語で正反対なので、そこを外すと英語だけ噛み合いません。



コメント