有機化学は「反応を全部覚える科目」と思われがちですが、公式の資料で確認すると、覚える範囲は学習指導要領でかなり絞られています。勉強の順番を間違えなければ、暗記量より「構造式を自分で書けるか」で差がつきます。
この記事では、有機化学をどの順番で・どう手を動かして進めるかを書きます。覚える内容の表は有機化学の暗記一覧、参考書の選び方は有機化学の参考書6冊に分けてあるので、ここでは重ねません(2026年10月16日に文部科学省と大学入試センターの公式資料で確認)。
結論:構造式 → 官能基 → 反応 → 構造決定 → 高分子の順に進める
| 順番 | やること | 手の動かし方 |
|---|---|---|
| ① | 構造式を書けるようにする | 分子式から異性体を自分で書き出す(読むだけにしない) |
| ② | 官能基ごとに性質をまとめる | 「官能基→性質→できる反応」を1枚の表にする |
| ③ | 反応を矢印の地図にする | 「何から何ができるか」を線でつなぎ、試薬は矢印の上に書く |
| ④ | 構造決定の型を作る | 分子式→不飽和度→官能基の順に絞る練習 |
| ⑤ | 高分子・天然有機は最後 | 糖・アミノ酸・合成高分子を、構造と性質の組で整理 |
反応は「構造のどこが変わるか」で決まるので、構造式が書けない状態で反応を覚えると、すべてが別々の丸暗記になります。①を飛ばすと②以降が全部重くなります。
範囲:学習指導要領が決めている有機化合物

有機化合物は、高校の「化学」の内容(4)「有機化合物の性質」で本格的に扱います。「化学基礎」には有機の独立した単元はなく、「分子と共有結合」の中で代表的な有機化合物に触れる程度です。つまり有機の本格的な学習が必要なのは「化学」を使う人です。
| 分類 | 学習指導要領が挙げる化合物 |
|---|---|
| 脂肪族 | アルコール・エーテル・アルデヒド・ケトン・カルボン酸・エステル(鏡像異性体にも触れる) |
| 芳香族 | 芳香族炭化水素・フェノール類・芳香族カルボン酸・芳香族アミン |
| 合成高分子 | 代表的な合成繊維とプラスチック |
| 天然高分子 | 繊維や食物を構成する代表的なもの(単糖類・二糖類・アミノ酸も扱う) |
脂肪族6種+芳香族4種で、取り上げる化合物の種類は合わせて10(計算:6+4)です。炭化水素の具体的な名前は指導要領の本文に列挙がなく。ここでは公式資料で確認できた範囲だけ書いています。
共通テストでの位置づけ:令和8年度本試験の第4問
大学入試センターの令和8年度本試験『化学』は大問5つ・各20点・合計100点です。このうち第4問が「有機化合物の性質」(20点)で、芳香族化合物の反応、脂肪族化合物、アルケンの異性体、二糖類・多糖類、ペプチドなどが出ました。さらに第5問の総合問題にも、合成高分子(ポリイミド)とエステルが出ています。
| 大問 | 内容 | 得点率 | 大問正答率 |
|---|---|---|---|
| 第1問 | 物質の状態・構造・溶液ほか | 62.8% | 63.5% |
| 第2問 | 熱化学・電気分解・反応速度・平衡 | 54.6% | 54.9% |
| 第3問 | 無機(酸化数・リン・遷移元素ほか) | 57.4% | 58.8% |
| 第4問 | 有機化合物の性質 | 59.6% | 60.1% |
| 第5問 | 総合(ポリイミド・エステルなど) | 49.9% | 50.6% |
大問正答率(その大問の設問ごとの正答率の平均)を高い順に並べると、第4問は5大問のうち2番目です(計算:63.5→60.1→58.8→54.9→50.6)。有機が特別に点を取りにくい科目、という数字ではありません。逆に最も低かったのは、分野をまたぐ第5問でした。
大学入試センターの自己評価では、異性体の問の正答率は約50%でした。高等学校評価も、受験者の「構造異性体,立体異性体についての用語の理解が十分ではないと考えられる」と述べています。①の「異性体を自分で書き出す」練習が、そのまま対策です。
注意:上の数字は令和8年度本試験の1年分です。大問の構成は年度で変わります(令和7年度は大問6つ)。令和9年度の出題範囲は、大学入試センターの令和9年度のページで確認してください。
①②何を覚えるか:官能基を軸に1枚の表にする
覚える対象は、上の10種類の化合物とその官能基です。「化合物の名前・官能基・できる反応・見分け方」を1行にした表を自分で作り、毎回その表に戻って確認します。完成した表そのものは、こちらの暗記一覧を使うとゼロから作る手間が省けます。


表は写すより、見ずに空欄を埋める方が定着します。完成した表を印刷し、構造式の列だけ隠して書く、という使い方を勧めます。
③反応は「地図」にする:試薬を矢印の上に書く

反応を1つずつ文章で覚えると、量が多く見えて挫折します。物質を点、反応を矢印にして、1枚の地図に描きます。たとえば、アルコール・アルデヒド・カルボン酸・エステルは、酸化やエステル化の矢印でつながっています。地図にすると、試験で「この物質から何ができるか」を線をたどって考えられます。
①1つの矢印に反応の名前と試薬を書く ②行き先がない物質は「その先は習わない」と気づける ③自分で描いた地図以外は覚えようとしない(他人の地図は構造を追えない)
④構造決定は「不飽和度」から入る
構造決定の問題は、分子式から不飽和度を出すところから始めると、候補を最初に絞れます。炭素・水素・酸素だけでできた化合物では、炭素の数をC、水素の数をHとして(酸素は数えない)、不飽和度=(2×C+2−H)÷2です。二重結合1個で1、環1個で1、ベンゼン環で4(二重結合3+環1)と数えます。
| 分子式 | 計算 | 不飽和度 | 候補の考え方 |
|---|---|---|---|
| C₄H₁₀ | (2×4+2−10)÷2 | 0 | 単結合だけ(アルカン) |
| C₄H₈ | (2×4+2−8)÷2 | 1 | 二重結合1個、または環1個 |
| C₄H₈O | (2×4+2−8)÷2 | 1 | C=C か C=O か環が1つ(アルデヒド・ケトン・アルコールなど) |
| C₆H₆ | (2×6+2−6)÷2 | 4 | ベンゼン環(4)の可能性が高い |
C₄H₈とC₄H₈Oは不飽和度が同じ1です。酸素は水素の数に影響しないので、不飽和度の計算では酸素を無視してよいことを、この2行で確認できます。不飽和度を自動で出して構造の候補も表示するツールは、こちらにあります。

不飽和度が出たら、次に「どの官能基が反応したか(銀鏡反応・ヨードホルム反応・加水分解など)」から絞ります。手順は分子式→不飽和度→官能基→炭素骨格の順で固定し、問題ごとにこの順で書き出してください。
⑤高分子・天然有機は最後でよい
糖・アミノ酸・合成高分子は、有機の最後の単元です。令和8年度の共通テストでは、高分子化合物は第4問ではなく第5問の総合問題で、身のまわりの化学物質として出ました。性質は構造とセットで出るので、①〜③で官能基の反応が入っていれば、ここは「官能基が何個つながったか」の整理で進められます。
つまずき別の直し方
| つまずき | 原因 | 直し方 |
|---|---|---|
| 異性体が数えられない | 骨格の書き方に順序がない | 炭素の枝分かれ→官能基の位置→二重結合の位置の順に、書き出して数える |
| 反応を覚えても忘れる | 構造のどこが変わるかを見ていない | 変わる結合に印をつけて矢印の地図に描く(③) |
| 構造決定が解けない | 分子式から入っていない | 分子式→不飽和度→官能基の型に固定(④) |
| 計算問題で落とす | mol計算の復習がない | 理論化学のmol計算に戻る |
計算問題(元素分析・気体の体積など)で落とす原因が、有機ではなく理論化学のmol計算にある場合があります。そのときは、有機に戻る前にmolの計算を確認してください。

無機化学との順番と、化学全体での時期
「化学」全体のロードマップ(理論→無機→有機)や、独学で何ヶ月かかるかは別の記事にまとめています。無機の覚え方は無機化学の勉強法、化学全体の期間は化学の独学は何ヶ月かかる?を見てください。教材は講義系と演習系を順に使う形が基本で、その選び方は参考書の記事にあります。

覚えたら、一問一答で確認します。有機化学 一問一答100問(無料)を、①〜③の表と地図を見ずに解いてみてください。
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有機化学の勉強法についてよくある質問
- 有機化学は暗記ですか、理解ですか?
-
暗記が必要な部分はありますが、反応の多くは構造のどこが変わるかでつながっています。官能基ごとに地図にすると、丸暗記する量は大きく減ります。
- 化学基礎だけの人も有機化学を勉強しますか?
-
学習指導要領上、化学基礎に有機の独立した単元はありません。有機の本格的な学習は「化学」の内容(4)です。化学基礎を選ぶ場合の大学入試センターの出題は大問2つ・50点です。
- 共通テストで有機は何点分ですか?
-
令和8年度本試験の『化学』では、第4問が「有機化合物の性質」で20点です。第5問の総合問題にも有機が出ていますが、その設問の配点は公式資料で取れていないため、確実に言えるのは第4問の20点までです。
- 構造決定は何から始めればいいですか?
-
分子式から不飽和度を計算するところからです。不飽和度(2×C+2−H)÷2で、二重結合・環・ベンゼン環の数を先に絞ります。
- 異性体がなかなか書けません。
-
骨格の枝分かれ→官能基の位置→二重結合の位置の順に、書き出して数える練習が効きます。令和8年度の評価でも、異性体の問は正答率が約50%でした。
この記事で確認した資料
学習指導要領の範囲は文部科学省の高等学校学習指導要領(平成30年告示)、共通テストの出題と正答率は大学入試センターの令和8年度本試験の資料に基づいています(2026年10月16日確認)。
文部科学省「平成29・30・31年改訂学習指導要領(本文、解説)」
大学入試センター「令和8年度 本試験 設問別得点率・正答率表」


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