パウリの排他原理とフントの規則とは?違いを図解で3分【化学】

パウリの排他原理・フントの規則とは?

化学を学んでいる大学生の方が最初に悩みやすい「電子配置」「パウリの排他原理」「フントの規則」という大事なルール。この規則は、原子の中の電子がどうやって配置されるかを教えてくれるものです。重要な規則なのですが、最初は難しく感じます。この記事では、具体例で2つのルールの違いを整理します。

【結論】パウリの排他原理とフントの規則
  • パウリの排他原理…1つの軌道に入れる電子は2個まで。入るならスピンは逆向き(↑↓)
  • フントの規則…エネルギーが等しい軌道が複数あるときは、まず1個ずつ別々の軌道に、スピンをそろえて(↑ ↑ ↑)入る
  • 違い…パウリは「1つの軌道の中」のルール、フントは「同じエネルギーの軌道どうし」のルール
  • 電子を入れる順番は 1s → 2s → 2p → 3s → 3p → 4s → 3d → 4p …
この記事の目次

パウリの排他原理とフントの規則の違い【早見表】

2つの規則は「どの範囲のことを決めているか」が違います。先に表で押さえてから、下の図解で確認してください。

パウリの排他原理フントの規則
決めていること1つの軌道に入れる電子の数と向き同じエネルギーの複数の軌道への入り方
内容2個まで。2個入るならスピンは逆向きまず1個ずつ別の軌道に。スピンはそろえる
図で言うと↑↓ はOK、↑↑ はNGp軌道3つに ↑ ↑ ↑ と入れてから ↑↓ ↑ ↑
代表例He(1s に ↑↓)C(2p に ↑ ↑ と1個ずつ)、N(2p に ↑ ↑ ↑)
破るとどうなる同じ状態の電子が2個になり、量子力学的にあり得ないエネルギーが高い(不安定な)配置になる
よくある間違い↑↑ と同じ向きで2個入れる2p の1つ目の軌道に ↑↓ と先に2個入れる

試験で問われるのは、ほぼ「炭素・窒素・酸素の2p軌道をスピンつきで書け」です。フントで1個ずつ入れ、4個目からパウリで逆向きに重ねる。この順番だけ体に入れてください。

「排他律」「排他原理」「禁制原理」は表記が違うだけで同じ法則

検索すると「パウリの排他律」「パウリの排他原理」「パウリの禁制原理」という複数の表記が出てきて混乱しますが、すべて同じ法則を指しています(英語ではPauli exclusion principle)。

表記のバリエーション(すべて同義)
  • パウリの排他原理…化学の教科書で最も一般的
  • パウリの排他律…物理系の教科書に多い表記
  • パウリの禁制原理…やや古い表記
  • パウリの原理…省略形

用語の表記で悩む時間はもったいないので、「全部同じ」と割り切って中身の理解に時間を使ってください。試験でどの表記が出ても、答える内容は変わりません。

電子軌道を理解しよう!

まずは高校化学の復習から!

高校化学で、電子殻について学習したことを覚えていますでしょうか。高校の時に習った内容を簡単にまとめると

電子殻について習ったこと
  • 電子殻は、内側から順にK殻、L殻、M殻、N殻…という名前がついている
  • それぞれの殻に入る最大の電子数は順に、2、8、18、32…となる。(2n2という式でまとめられる)

ここでは、「それぞれの殻のなかに何個の電子が入るのか」ということしか言及されていませんでした。しかしこれから登場する「電子軌道」という考え方を用いることで、電子がどこに存在していそうか、という議論をすることができます。

正確にいうと、位置と運動量を同じタイミングで正確に測定することはできないので、代わりに電子が存在する確率の分布を考えています。

電子軌道とは?

電子は、どこに存在しているかを正確に特定することができません。そこで、電子が存在してそうな場所を数学的に明らかにしました。それがs軌道,p軌道,d軌道,f軌道…というものです。

この軌道の大きなルールを以下にまとめます。

電子軌道のルール
  • 軌道の数はそれぞれ奇数個で、増えていく(s軌道は1個ある。p軌道は3個ある。d軌道は5個ある…という流れ)。
  • 1つの軌道には、2つしか電子が入らない!

これらのルールに則ると、高校化学の「殻」と「軌道」は以下のようにリンクしますね。

電子軌道の様子。見られない方は後程ご覧ください。

ここでは詳しくは省略しますが、それぞれの軌道には「方向性」があります。例えばp軌道であれば、px軌道、py軌道、pz軌道という3種類があって、それぞれに最大2個まで電子が入ります。s軌道には方向性はありません。

どういう順番で電子は収容されていく?

s,p,d…軌道にそれぞれ2つずつ電子は入っていくことは分かりましたが、ではどういう順番で入っていくのかを次にご紹介します。これは分かりやすい図があるので、参考にしてください。

フントの規則とパウリの排他原理|どういう順番で電子は収容されていく?(1)

上記の図のように、①から順番に左斜め上に見ていきます。するとそれが電子が入っていく順番になっています。具体的には、1s, 2s, 2p, 3s, 3p, 4s, 3d, 4p, 5s, 4d, 5p, 6s, 4f, 5d…という順番になっていますね。4p の次は 4d ではなく 5sです。ここを飛ばすと、それ以降がすべてずれます。

ここで気づいて欲しい点は、3dよりも4sの方が優先度が高いということです。数字は必ずしも優先度を表しているということではないんですね。

ではちょっと具体例で練習してみましょう。

練習問題①:18Arの電子配置を書いてみましょう。

解くためのポイント
  • 軌道の数はそれぞれ奇数個で、増えていく(s軌道は1個ある。p軌道は3個ある。d軌道は5個ある…という流れ)。
  • 1つの軌道には、2つしか電子が入らない!
  • 軌道は、1s, 2s, 2p, 3s, 3p, 4s, 3d, 4p, 5s, 4d, 5p, 6s, 4f, 5d… という順番

解答と考え方はこちらをタップ(クリック)!

〈解答と考え方〉
18Arには、電子が18個存在しています。ポイントを元にして考えます。

s軌道には電子が2個、p軌道は6個、d軌道は10個まで電子が入ります。また、軌道の順番にも注意すると

1sに2個、2sに2個、2pに6個、3sに2個、3pに6個となります。これを機に正式な書き方も覚えておきましょう。右上に入る電子の数を書いて以下のように表現します。

1s2 2s2 2p6 3s2 3p6

確かに右上の数を全部足すと、18になっていますよね。

練習問題②:34Seの電子配置を書いてみましょう。

解答と考え方はこちらをタップ(クリック)!

〈解答と考え方〉
34Seには、電子が34個存在しています。ポイントを元にして考えます。

s軌道には電子が2個、p軌道は6個、d軌道は10個まで電子が入ります。また、軌道の順番にも注意すると

1sに2個、2sに2個、2pに6個、3sに2個、3pに6個、4sに2個、3dに10個、4pに4個となります。4s が 3d より先でしたね。つまり

1s2 2s2 2p6 3s2 3p6 3d10 4s2 4p4

となります。確かに右上の数を全部足すと、34になっていますよね。

入れる順番と、書き表す順番は別です。電子は 4s → 3d の順に入りますが、書くときは 3d10 4s2 のように数字(主量子数)の小さい順に並べ替えるのが慣習です。埋める順と書く順が違うだけで、中身は同じものを指しています。

ここまで理解できたでしょうか。次に「電子のスピン」をご紹介しますね。

電子のスピンを理解しよう!

多くの実験から、電子はまるで自転しているかのような性質を持っていることが分かりました。詳しくは省略しますが、電子には、上向き(アップスピン)と下向き(ダウンスピン)の2つの状態があることを覚えておいてください。

アップスピン、ダウンスピンの2種類がある。
アップスピン、ダウンスピンの2種類がある。

電子が回っている、というのはあくまでこれはイメージなので実際に回っているわけではないです。

電子のスピンはこれくらいで大丈夫です。次に「パウリの排他原理(パウリの排他律)」をご紹介します。ここで離脱する方が多いですが、頑張って読んでみてください!

パウリの排他原理とは?1つの軌道に電子は2個まで・逆向き

パウリの排他原理は分かりやすく一言で表すと、

同じ原子内の同じ軌道(エネルギー準位)にある2つの電子は、同じスピン状態(量子状態)を持つことができない。

という規則のことです。もう少し噛み砕いて言うと、同じ軌道に2つの電子が入る場合、必ずスピンが逆向きでなければならないということです。

例えば、ヘリウム原子(He)は2つの電子を持っていますね。先ほど、1つの軌道には、2つしか電子が入らないと説明しましたが、ヘリウムの電子はパウリの排他原理に従うと、2つの電子は次のように配置されます。

フントの規則とパウリの排他原理の解説図(2)

このように、↑(アップスピン)と↓(ダウンスピン)の電子が1つずつ配置されます。↑↑や↓↓という組み合わせはあり得ないというわけです。

 1つの軌道には、2つの異なるスピン状態電子が入るということを理解していただけたと思います。これでどんな原子でも、電子配置が書ける…と思いきや、もう1つの超重要なルールがあります。

それが「フントの規則」です。以下にご紹介します。

正式な定義:4つの量子数がすべて同じ電子は、2個存在できない

大学の教科書では、パウリの排他原理を「1つの原子の中で、4つの量子数がすべて同じ電子は2個以上存在できない」と説明します。量子数は、電子の状態を表す4つの番号です。

量子数記号表しているもの
主量子数nどの殻か(1=K殻、2=L殻…)
方位量子数l軌道の形(s・p・d・f)
磁気量子数m同じ形の軌道のどれか(pならpx・py・pzのどれか)
スピン量子数sスピンの向き(↑か↓の2通り)

1つの軌道は、n・l・mの3つで決まります。残るスピンは↑と↓の2通りしかないので、1つの軌道に入れる電子は2個まで、2個入るなら向きは逆になります。上の早見表の「2個まで・逆向き」は、この定義から出てくる結論です。

4つの量子数と排他原理
  • 軌道はn・l・mの3つの番号で決まる
  • スピンは↑と↓の2通りだけ
  • だから1つの軌道に入れる電子は2個まで
  • 4つの番号が全部同じ電子は2個いられない

フントの規則とは?同じエネルギーの軌道に1個ずつ入る

フントの規則も分かりやすく一言で表すと、

エネルギーが等しい軌道が複数あるときは、まずは別々の軌道に、スピンの向きをそろえて入っていく

という規則のことです。ドイツの物理学者フリードリッヒ・フントが発見したものなのですが、これだけだと分かりにくいので、具体例を出して説明します。

フントの規則はなぜ成り立つのか

電子はどれもマイナスの電気を持っているので、互いに反発します。同じ軌道に2個詰めるより、別々の軌道に分かれて入ったほうが反発が小さく、エネルギーが低い(安定な)状態になります。

さらに、別々の軌道に入った電子は、スピンの向きをそろえたほうがエネルギーが低くなることが分かっています(交換相互作用と呼ばれる量子力学の効果です)。そのため、同じエネルギーの軌道には「1個ずつ・同じ向き」で入っていきます。

フントの規則のポイント
  • 同じエネルギーの軌道が複数あるときに使う
  • 電子どうしの反発が小さい入り方を選ぶ
  • 1個ずつ別々の軌道に、スピンをそろえて入る
  • 全部1個ずつ入ったあと、2個目を逆向きに重ねる

炭素原子の電子配置を考えよう

ここでは、炭素原子(C)の電子配置を考えます。炭素原子は6個の電子を持っていますね。よってこれまでのことを踏まえると以下のように考えてしまいたくなります。

炭素の電子配置(誤り)

しかしここで「フントの規則」を思い出してください。まずは別々の軌道に、スピンの向きをそろえて入っていきます。ですので、p軌道は以下のようになるんです。

炭素の電子配置(正しい)

丸で囲ってある番号は、電子を埋めていく順番を表しています!まずはs軌道、その後p軌道という順番で考えていきます!

規則を分かっていただけましたでしょうか。最後に練習問題を解いてみてください!

練習問題③:34Seの電子配置をスピンを用いて書いてみましょう。

練習問題②の答えも参考にしながら、実際にスピンを書いてみましょう!

〈解答と考え方〉
34Seは、練習問題②より、1s2 2s2 2p6 3s2 3p6 3d10 4s2 4p4となることが分かりましたね。

ここで1つ思うことが、

「34本も矢印書くの?」

ということですよね。しかしそこは安心してください。希ガスの電子配置を書くことで省略することが許されています。

今回の問題であるSeでいうと、その前に登場する希ガスであるAr(アルゴン)の電子配置を借りてこのように書いてOKです。

[Ar] 3d10 4s2 4p4 という表記でOK!

さらに実際にスピンを書く際も、すべて矢印を書く必要はなく、[Ar]としておいて、その後から書けばOKです。実際に書いてみましょう。

フントの規則とパウリの排他原理|炭素原子の電子配置を考えよう(3)

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パウリの排他原理・フントの規則のよくある質問

パウリの排他原理を簡単に言うと?

1つの軌道に入れる電子は2個までで、2個入るならスピンは必ず逆向き、という規則です。↑↓はOK、↑↑はNG。

フントの規則を簡単に言うと?

同じエネルギーの軌道が複数あるなら、まず1個ずつ別々の軌道に、スピンをそろえて入れる、という規則です。炭素の2p軌道が ↑ ↑ と分かれて入るのがこの規則です。

パウリの排他原理とフントの規則の違いは?

パウリは1つの軌道の中のルール(何個・どの向き)、フントは軌道どうしのルール(どの軌道から埋めるか)です。両方を同時に使って電子配置を書きます。

4つの量子数とは何ですか?

電子の状態を表す4つの番号で、主量子数n(殻)、方位量子数l(軌道の形)、磁気量子数m(同じ形の軌道のどれか)、スピン量子数s(向き)です。パウリの排他原理は「この4つが全部同じ電子は2個いられない」という規則です。

フントの規則はなぜ成り立つのですか?

電子どうしはマイナスの電気で反発するので、同じ軌道に2個詰めるより別々の軌道に分かれたほうが安定だからです。別々の軌道ではスピンをそろえたほうがさらにエネルギーが低くなります。

パウリの排他律と排他原理は違うものですか?

同じ法則です。化学では「排他原理」、物理では「排他律」と表記されることが多いだけで、内容は変わりません。

パウリの排他原理は高校で習いますか?

教科書の範囲としては習いません。高校の化学基礎で扱う電子配置は「電子殻(K殻・L殻…)」までで、学習指導要領解説にも代表的な典型元素の電子配置を扱うと書かれています。軌道・スピン・パウリ・フントは大学の化学(または高校の発展)で登場します。

4s と 3d はどちらが先に埋まりますか?

4s が先です。電子を入れる順は 1s, 2s, 2p, 3s, 3p, 4s, 3d, 4p… で、書き表すときは 3d10 4s2 のように数字の小さい順に並べ替えます。

まとめ:電子配置は「順番→フント→パウリ」の3手順

電子配置は、①順番どおりに軌道を埋める → ②同じエネルギーの軌道はフントの規則で1個ずつ → ③2個目はパウリの排他原理で逆向き、の3手順で必ず書けます。原子や分子の安定性、化学結合の理解はここが土台になります。

この記事で確認した資料

高校の化学基礎で扱う電子配置の範囲(原子の構造、電子配置と周期表。原子の電子配置については代表的な典型元素を扱う)は、文部科学省の高等学校学習指導要領解説 理科編で確認しました。軌道・スピンの説明は大学初年度の一般化学の内容です(2026年9月13日確認)。

文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編」(化学基礎・物質の構成粒子)

【補足】このあたりの単元で混乱している場合、原因は今の単元ではなく前の単元の理解の穴にあることが多いです。手前の単元まで戻って演習し直すほうが、結局は速く終わります。塾・オンライン教材の比較は塾・オンライン教材12社の比較にまとめています。

【化学の勉強順序に迷ったら】この記事の内容をどの時期にやるべきかは化学の独学ロードマップ(4ステップ)で全体像を解説しています。

化学全分野の一問一答もまとめています。

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この記事を書いた人

兵庫県のとある学習塾の塾長。私大理系卒。塾バイト・家庭教師を経て、長年の経験を基に幅広く受験をサポートします。生徒だけでなく、それを支える保護者や先生の力にもなりたいという思いで立ち上げました。

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