
自己紹介
有名私大理系学部卒。現役塾講師。好きな科目は化学で、大学時代は有機化学系の研究室に所属していました。
『マクマリー有機化学』とは?どんな教科書?
『マクマリー有機化学』は、大学生で有機化学を専門にする大学生が基本を学ぶのに最適な教科書とされています。
上・中・下の3冊に分かれていて、合計で約1,440ページあります。数字だけ見ると圧倒されますが、図が多く説明が丁寧なので、量の割には読み進めやすい本です。

「基本」といっても大学レベルの基本です。高校化学が入っていることが前提になります。
『マクマリー有機化学』は高校生には不向き?


結論、良いですが、使い所に注意するべきです。
高校化学と大学化学の違いとは?
高校生で学ぶ有機化学は、「なぜそうなるか?」という理屈がかなり飛ばされています。「アルコールの酸化」「カルボン酸の反応」など、とりあえず結果だけ提示されて、覚えましょう。で終わってしまいがちです。
しかし、これらの反応はもちろん説明する手段が、先人によって見出されています。それを学んで、反応の根本を理解するのが大学生からの有機化学になります。
具体的には有機化学のあらゆる反応は、「電子の動き」を追うことが非常に多くなります。ここまでの話は高校化学ではほとんど登場しません。
入試の対策には結びつきにくい
一般的に、大学入試で出題される問題では、大学有機化学の知識は使いにくいです。もちろん出題される事項の背景知識まで分かる、などのメリットはありますが、解答する際にはあまり役立ちません。
また、大学の有機化学では計算があまり登場しません。構造決定はむしろ大きく扱われますが、手法が入試とは違います(詳しくは後述します)。そういう意味でも、高校と大学では問われる力が大きく異なります。

大学化学は難しい概念が様々登場しますが、理解できれば暗記の量が減ります。そういうプラスの側面もあります。
楽しむ範囲で読むには非常に面白い
とは言えども、高校の有機化学が面白いと思った方や、なぜそうなるの?と思う方には1度読んで見る価値はあると思います。
勿論分からないところもあるとは思いますが、自身で理解できる範囲で進めていくと、有機化学の面白さがより深まります。
また、YouTubeでこんな動画を上げている方もいます。筆者は大学生の頃によく見ていました。こういった動画で学んでいくと、高校化学を超えた理解ができていきます。
値段と、買い間違いの注意

2026年9月29日に、各出版社の公式ページで版・価格・ページ数を確認しました。中古の相場は変動するので、目安として見てください。
日本語版の最新は第9版で、上・中・下の3分冊です。
高校生が全部そろえる金額ではありません。ただ第9版は2017年刊で中古が潤沢です。
中古は定価よりかなり安く出回っています(相場は変動するので、買う時点で確認してください)。まず上巻だけ中古で買うのが現実的です。
似た名前の本が多いので、ここだけ気をつけてください
| 紛らわしい本 | 中身 |
|---|---|
| マクマリー生物有機化学(丸善出版) | まったく別の本です。原書から違います。安いので間違えやすいので注意 |
| マクマリー有機化学概説 | 同じ本の縮約版(1冊・5,940円・東京化学同人)。1冊で通したいならこちらもあり |
| 問題の解き方 | 中身は英語です。日本語の解答集は出ていません |
| 「第10版」という表記 | 英語の原書のことです。日本語版は第9版までです |

英語が読めるなら、原書の第10版は OpenStax というサイトで全文が無料公開されています。買う前に中身を見てみたい人は、まずそちらを開いてみるのが早いです。
中古の旧版でも読めるか|国立国会図書館の書誌で第4〜9版を比べた
中古で探すと、第9版より前の版も出てきます。
国立国会図書館サーチで、東京化学同人の『マクマリー有機化学』上・中・下の書誌を版ごとに引き、刊行年・ページ数・価格を並べました。
上・中・下は通しページなので、下巻の最後のページ番号で本文全体の長さが分かります。
| 版 | 上巻の刊行 | 上巻の本文(書誌) | 下巻の最後のページ(書誌) | 3冊の価格の合計(書誌の値から計算) |
|---|---|---|---|---|
| 第4版 | 1998年3月 | 532ページ | 1369 | 13,300円 |
| 第5版 | 2001年3月 | 528ページ | 1365 | 13,300円 |
| 第6版 | 2005年3月 | 522ページ | 1349 | 13,300円 |
| 第7版 | 2009年2月 | 502ページ | 1321 | 13,300円 |
| 第8版 | 2013年1月 | 506ページ | 1329 | 13,300円 |
| 第9版 | 2017年1月 | 518ページ | 1359 | 13,600円 |
| 第9版(いまの公式ページ) | ― | 560ページ(公式の表示) | ― | 本体14,200円(税込15,620円) |

計算
- 第9版と第8版:1,359 − 1,329 = 30ページ。30 ÷ 1,329 = 2.3%
- 第9版と第7版:1,359 − 1,321 = 38ページ。38 ÷ 1,321 = 2.9%
- 6つの版で最も長い第4版と最も短い第7版:1,369 − 1,321 = 48ページ。48 ÷ 1,321 = 3.6%
- 改版の間隔:2001 − 1998 = 3年、2005 − 2001 = 4年、2009 − 2005 = 4年、2013 − 2009 = 4年、2017 − 2013 = 4年
- 第9版の価格:刊行時の書誌 4,600 + 4,500 + 4,500 = 13,600円。いまの公式の本体 4,800 + 4,700 + 4,700 = 14,200円。差 600円(600 ÷ 13,600 = 4.4%)
- 第9版の中巻・下巻:書誌は「p520~930」「p932~1359」。930 − 520 + 1 = 411ページ、1,359 − 932 + 1 = 428ページ
- 第9版の上巻:書誌は「518,19p」で 518 + 19 = 537ページ。公式は560ページで、差は 560 − 537 = 23ページ
本文の長さは第4版から第9版まで1,321〜1,369ページで、差は最大でも48ページでした。旧版でも、本の厚みや扱う量はほとんど変わりません。
一方、改版は4年ごとに続いてきましたが、日本語版は2017年の第9版から9年以上そのままです。
違いが出るのは中身です。東京化学同人の公式ページは第9版の改訂点として、NMR分光法の議論と反応機構の問題を解く機会の拡充を挙げています。
この記事が勧める第6章(反応機構)と第13章(NMR)に関わる所です。
章の番号は版で変わります。国立国会図書館の書誌には第7版上巻の目次が載っていたので、第9版の公式目次と並べました。
| 内容 | 第7版(2009年・書誌の目次) | 第9版(公式の目次) |
|---|---|---|
| 有機反応の概観(電子の動きを矢印で書く) | 第5章 | 第6章 |
| 立体化学 | 第9章「立体化学」 | 第5章「四面体中心における立体化学」 |
| アルケン | 第6・7章 | 第7・8章 |
| 構造決定:質量分析法と赤外分光法 | 第12章 | 第12章 |
| 構造決定:核磁気共鳴分光法 | 第13章 | 第13章 |
第7版では立体化学が後ろ(第9章)にあり、この記事が勧める「第6章」は第7版ではアルケンの章です。第8版の目次は書誌にも公式ページにも記載なしで、確かめられませんでした。
また、ページ数は公式(560ページ)と書誌(518+19ページ)で食い違いがあり、数え方が違います。書誌の価格欄にも税込か税抜かの記載はありません。
- この記事の章番号(第6章・第12〜14章)で読む場所を決めたい人。章番号は第9版のもので、第7版では「有機反応の概観」が第5章だった。
- 第8版は目次を確かめられる資料が無い。旧版を買うなら、章の名前で探す
- NMRや反応機構の問題を目当てにする人。公式の紹介では、第9版でNMR分光法の議論と反応機構の問題が拡充された
- 英語の「問題の解き方」と一緒に使う人。問題の解き方も版ごとに別の本で(書誌に第4〜9版の各版がある)、いま公式で売っているのは第9版用。本体と版をそろえる
- 「いちばん新しいマクマリー」を探している人。
- 2024年12月刊の『マクマリー有機化学:生体反応へのアプローチ』第3版(書誌934ページ)は、上・中・下の3分冊とは別の1冊の本
出典:国立国会図書館サーチ「マクマリー有機化学 上 第9版」/「同 下 第9版」/「同 上 第8版」/「同 下 第8版」/「有機化学 上 第7版」(目次)/「有機化学 上 第4版」/「マクマリー有機化学:生体反応へのアプローチ 第3版」/東京化学同人「マクマリー有機化学(上)第9版」/「同(下)第9版」/国立国会図書館サーチ 検索結果(著者マクマリー・書名「有機化学」)(2026年10月13日確認)
高校生が読むなら、上巻の第1〜8章です

1,440ページを頭から読む必要はありません。高校の有機とつながるのは、上巻の前半だけです。
この記事の章番号(第6章・第12〜14章など)は、いま新品で買える第9版(2017年)の章番号です。
旧版は番号が違い、第7版では「有機反応の概観」が第5章です(国立国会図書館の書誌の目次で確認)。中古の旧版で読むときは、章の名前で探してください。
| 章 | 高校化学とのつながり |
|---|---|
| 第1・2章 構造と結合/酸と塩基 | 構造式の書き方と、共鳴。ここが基礎です |
| 第3〜5章 アルカン/立体化学 | 異性体。高校で習う不斉炭素の、本格版です |
| 第6章 有機反応の概観 | ここが分水嶺です。「電子の動き」を矢印で書く方法を学びます |
| 第7・8章 アルケン | 高校で丸暗記した付加反応が、なぜそうなるかの形で出てきます |

読むなら第6章だけでも価値があります。ここを読むと、高校で「そういうものだ」と覚えた反応の見え方が変わります。逆に言えば、第6章まで到達しないと、マクマリーを買った意味はほとんどありません。1章から順に読んで力尽きる人が多いので、先にここを開いてみてください。
訂正:構造決定は、むしろ主役級に扱われています
「大学の有機化学では構造決定をあまりやらない」と書かれているのをよく見ますが、これは正確ではありません。マクマリーでは上巻の第12〜14章の3章分が構造決定に充てられています。
- 第12章…質量分析法と赤外分光法
- 第13章…核磁気共鳴分光法(NMR)
- 第14章…紫外分光法
正しくは「高校と大学では、構造決定の手法が違う」です。高校入試の構造決定は分子式と反応性から絞り込みますが、大学では機器のデータから決めます。
やらないのではなく、やり方が入試とつながらないということです。
上・中・下巻の全31章と、高校「化学」の範囲の対応
「レベル」を章ごとに確かめるため、東京化学同人の公式ページにある第9版の目次(上・中・下)と、文部科学省の学習指導要領解説の「化学」の有機分野(有機化合物の性質)を照らし合わせました。
| 巻・章 | 主な内容(公式の目次) | 高校「化学」との対応 |
|---|---|---|
| 上 1〜5章 | 構造と結合/酸と塩基/アルカン・シクロアルカン/立体化学 | 炭化水素・構造異性体・シス‐トランス異性体。鏡像異性体は高校では「触れる」程度 |
| 上 6〜11章 | 有機反応の概観/アルケン・アルキン/有機ハロゲン化物/求核置換と脱離 | アルケン・アルキンの性質と反応は高校にもある。電子の動きで書く反応機構は高校の解説に出てこない |
| 上 12〜14章 | 構造決定:質量分析・赤外分光・核磁気共鳴(NMR)・紫外分光 | 高校の「化学」の解説に機器による構造決定は出てこない |
| 中 15〜18章 | ベンゼンと芳香族性/芳香族求電子置換/アルコールとフェノール/エーテル | 芳香族炭化水素・フェノール類、アルコール・エーテル |
| 中 19〜23章 | アルデヒドとケトン/カルボン酸/カルボン酸誘導体/カルボニルα置換・縮合反応 | アルデヒド・ケトン・カルボン酸・エステルまでは高校にある。α置換・縮合反応は大学の内容 |
| 下 24章 | アミンと複素環 | 芳香族アミン |
| 下 25〜28章 | 生体分子:糖質/アミノ酸・タンパク質/脂質/核酸 | 天然高分子(単糖類・二糖類・アミノ酸・タンパク質・デンプン・セルロース)。油脂は「触れる」程度 |
| 下 29・30章 | 代謝経路の有機化学/ペリ環状反応 | 対応する項目なし |
| 下 31章 | 合成ポリマー | 合成高分子(ナイロン・ポリエチレン・ポリエチレンテレフタラートなど) |
つまり、高校の有機と同じ物質を扱う章は上・中・下に散らばっていますが、どの章も「なぜその反応が起こるか」を電子の動きで説明する書き方です。
高校で名前と結果を覚えた物質が、大学の理屈で出てくる本、というのがレベルの実際です。
- 高校の範囲と重なる物質が多い…中巻の芳香族・アルコール・カルボニルは、高校の有機の後半と同じ物質を扱います
- 高校に無いのは「理屈」と「測り方」…反応機構(上6章〜)と機器分析(上12〜14章)が大学の内容です
- 下巻は高分子・生体分子…高校の高分子化合物とつながりますが、代謝・ペリ環状反応は高校に対応がありません
高校側は、文部科学省高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編の「化学」(4)有機化合物の性質(p.107〜109)で確認しました(2026年10月13日)。
マクマリーの前に読むといい本
いきなりマクマリーで挫折する高校生をよく見ます。間に1冊はさむと、読める確率がかなり上がります。
| 本 | 価格・分量 | こんな人に |
|---|---|---|
| 化学の新研究 第3版 卜部吉庸/三省堂 | 2,970円 896ページ | まずはこれです。高校範囲を深いところまで。ここが固まっていないなら、先にこちら |
| はじめて学ぶ 大学の有機化学 深澤義正・笛吹修治/化学同人 | 2,640円 184ページ | 橋渡しに一番向いています。著者はマクマリー第9版の訳者の一人で、用語がそのままつながります |
| すぐわかる有機化学 石川正明/東京図書 | 2,640円 160ページ | 見開き完結で読みやすい。字の多い本が苦手な人向け |
順番としては「新研究で高校範囲を固める → 橋渡しの1冊 → マクマリー上巻の第6章」が安全です。184ページの本なら、興味が続くかどうかも2,640円で試せます。

私自身、大学で最初にマクマリーを開いたとき、高校で覚えた反応の名前はほとんど役に立ちませんでした。役に立ったのは、構造式を素早く正確に書けることと、官能基が体に入っていることです。高校範囲を固めることは、そのまま大学の準備になっています。先取りを焦る必要はありません。

まとめ:受験には不要、興味があれば中古で読む
多くの高校生にとっては、ややオーバーワークで、受験のことを考えると必要ありませんし、得点UPには繋がりにくいです。
しかし有機化学に興味があり、高校レベルは高いレベルで理解できている方には、読んで見る価値はある教科書だと思います。

大学の教科書は高価なものが多いので、中古などの安いものを探してみるのがおすすめです。
高校生が大学レベルの参考書を使うときの注意
意欲のある高校生が大学の教科書に手を出すことがあります。悪いことではありませんが、受験対策としては優先順位が下がることは知っておいてください。
| 高校の参考書 | 大学の教科書(マクマリー等) | |
|---|---|---|
| 目的 | 入試で点を取る | 学問として理解する |
| 範囲 | 入試範囲に限定 | 入試範囲を大きく超える |
| 解法 | 入試の解き方 | 原理からの導出 |
| 受験での費用対効果 | ◎ | △(時間がかかる) |
※受験生としては、まず入試範囲を完成させるのが先です。
- ①化学が得意で、原理から理解したい…暗記が減って応用が効くようになります
- ②難関大の考察問題に対応したい…背景知識が思考の材料になります
- ③大学で化学系に進むことが決まっている…先取りとして有効
- ④受験勉強のモチベーション維持…「面白い」が続く原動力になります

私は「読むな」とは言いません。ただし入試範囲が固まってからにしてください。順序を間違えると、面白い部分だけつまみ食いして入試に必要な部分が抜けます。学習の順序は化学の独学ロードマップを参考に。
よくある質問
- マクマリー有機化学は大学受験に必要ですか?
-
必要ありません。受験のことを考えると得点アップには繋がりにくく、まずは化学の新研究などで高校範囲を固めるほうが先です。有機化学に興味があり、高校範囲を高いレベルで理解できている人が読むものです。
- 日本語版は何版を買えばいいですか?
-
日本語版は第9版が最新で、上・中・下の3分冊です。高校生が読むなら上巻だけで足ります。「第10版」は英語の原書のことです。
- 上巻のどこから読めばいいですか?
-
高校の有機とつながるのは上巻の第1〜8章です。1章から順に読むと力尽きやすいので、まず第6章「有機反応の概観」(電子の動きを矢印で書く方法。章番号は第9版のもの)を開いてみてください。
あわせて読みたい
読み終えた専門書や、結局使わなかった参考書は買取に出せます。厚い本ほど処分に困るので、送る前に査定額を確認しておくと判断が早いです。

この記事の更新・訂正
- この記事の章番号(第6章・第12〜14章など)は第9版のものです。旧版は番号が違い、第7版では「有機反応の概観」が第5章でした。読む場所の説明とよくある質問に、その旨を書き足しました
全記事の履歴は「訂正・更新の履歴」、調べ方と書き方は「記事の作り方」にまとめています。
